SCENE5 病院やスタッフが管理者に期待していること 病棟管理は看護過程と同じ

 病院があなたに期待している管理と、自分がやろうとしている管理に差はないであろうか。スタッフから管理職、さらに上級の管理職となるにつれて、仕事内容が見えにくくなる。これは、管理職がマニュアルなどにあまり縛られないことを示していること同時に、管理職の業務もはっきりしていないことが理由である。管理職の業務を考える上で重要なことは、どのように管理に必要な資源(人材や情報など)を調整し最大限の成果を発揮するかである。病院や職位、部門によっても管理職に求められる成果は違ってくる。管理職はそんなことを考え、現状の自分の役割について、それぞれ結論を出さなければならない。「主任の役割とは」「師長の役割とは」病院によって役割が違うことも念頭に置く必要がある。

 奈須は、ここ数カ月、病棟における自分の職務のあり方や管理職の役割について考えていた。スタッフのやる気を引き出すことができるようになったとしても、師長として、管理職としてよりよい管理をするにはどうすればよいのかが分からなくなくなっていた。そこで、薬剤部の岡田に、自分のあるべき姿について相談することにした。そこで、病棟の休憩室で、夜に医事課の石崎と2人で話を聞くことにした。

岡田:今日も管理についての相談だね。

奈須:病棟の管理はうまく行っているのですが、さらに病棟のレベルを高めて行くことと自分の管理能力を高めるために、何かが必要だと感じています。簡単に言うと管理とはどうあるべきか、その本質について知りたいと思っています。石崎君にも相談したら、岡田さんに聞いてみようということになりました。

石崎:実は、私も悩んでいます。業務は質が良く、効率的になってきたのですが、これ以上、医事課が良くなるとも思えないんです。もっと高みを狙っていきたいと思っています。

岡田:2人とも、成長著しいねぇ。そんなに焦る必要はなんだけど、良い管理者になろうとする急ぐ気持ちもわからなくもない。先ずは、立派な管理者になるには時間がかかるということを頭に入れておいてよ。そうでないと自分がつぶれるからね。余裕を持って、失敗と成功を繰り返し、管理者として成長していくんだ。おれも昔、新人に期待しすぎて、つぶしてしまったことがあるよ。

石崎:本当ですか?岡田さんともあろう人がそんな過去があったなんて、びっくりです。

岡田:おれも完ぺきではないよ。いつも失敗を改善しながらだよ。ただし、失敗は2度繰り返さないことが大前提だけどね。

奈須:私は、絶対失敗しないように考えていたので、そのことがすごくストレスでした。失敗したら辞職しなければならないと真剣に考えていたくらいです。

岡田:それは、周りに感化され過ぎだよ。いかにして、失敗しないようにするかを考えることは必要なんだけど、失敗したら辞職しなければならないというのははありえないね。そんなことしていたら、世の中の社長や院長は、毎月変わるかもね。俺も3カ月に1度、辞職かもしれないよ(笑)。要するに、何かする時は綿密には計画を立て、実行することが必要だ。でも、計画は、成功するかもしれないが失敗する時もある。管理ってそんなもんだよ。

奈須:確かにそうですね。少し気が楽になりました。ところで、管理職の職務ってなんでしょうか?

岡田:逆の立場から考えてみようか。少し気が楽になりました。ところで、管理職の職務って何でしょうか?に

―岡田が、奈須と石崎に紙に質問を書いて渡した。

質問1
①提案を目向きにとらえ、提案を病院側に通してくれる。
②提案はいつもケチをつけられる。

奈須:岡田さん、この間の斎藤部長の真似ね。

岡田:ちょっと真似させてもらいました。あの問いかけっていいね。コーティングのようだよ。先日は、おれも気づきがあった。さて、質問の答えはどうかな。

奈須:①ですね。②は嫌な感じがします。

岡田:質問2については、石崎くんどうかな?

質問2
①上司が考えていることが理解できない。
②上司は方針をはっきりし、経営会議などの情報を提供してくれる。

石崎:②の方が仕事しやすいです。①は、何をしたらいいの分からないので仕事がしづらいです。

岡田:質問3は、どうだろう?

質問3 
①良い提案については、評価してくれる。
②良い提案を自分のものにしてします。上からの自分の評価ばかり気にしている。会議などの情報を提供してくれる。

奈須:①ですね。②は最低の管理者です。

岡田:でも、②のような人って珍しくないよね。

奈須:確かに、いますね。こんな人にはなりたくないです。

岡田:続いて、質問4だ。

質問4 
①上司がやることは失敗ばかり。
②部下をやる気にさせ、企画を成功に導く。

石崎:②がいいですね。①のような人も実際にいますね。

岡田:運も実力のうちだよ。仕事ができるようになると、運も上向く。仕事は忙しい人と運のいい人に任せろって聞いたことない?

石崎:聞いたことはないですけど、確かにそんな気がします。

奈須:運も実力のうちなんですね。仕事ができる人って、仕事も多いけど、成功させますね。

岡田:本当は、運ではなくて、行動習慣が仕事を成功するように導いているんだよ。分かるかな。

奈須:そうなんですね。

岡田:最後に、質問5だ。どれがいいかな。

質問5 
①医療機器の購入において、見込まれる件数などを考えて購入する組織。
②業者から勧められたり、周りの病院が使っていると、採算が合わなくても購入してしまう組織。
③他の病院より、いいものがあれば採算を考えない組織。

奈須:①ですね。②と③は困ります。これで、スタッフのボーナスが下がったら、私は怒ります。

岡田:そうだね。スタッフが頑張って、医療機器のお陰でボーナスが下がったら、やる気なくすよ。質問5、気づいてほしいのは、①が数字を基に冷静に判断しているのに対し、②と③は感情で決めているということなんだ。管理職は、感情で判断をすると間違えるということなんだ。

奈須:なるほどですね。病院ではよくある話なので、怖いです。

岡田:2人とも、管理職としての仕事が分かっているようだけどね。

奈須:でも、この質問の答えって、あたりまえじゃないですか?

岡田:頭でわかっていても、行動できるかは別だよ。意識していないと行動できないよ。

―岡田は1つの図を渡した。

岡田:管理って、マネジメントなんだよ。この(図4)のように、組織が目標に対して結果を達成することを支援することが管理者の仕事だ。管理者は、スタッフに対して目標を提示し、動機づけや教育、支援、職場の環境整備、情報の透明性を高めることで、結果を出していくんだよ。それができればいいんだ。

奈須:そういわれれば分かります。動機づけや教育ってツールなんですね。こういったツールをバランスよく利用していくことが、管理者の仕事なんですね。そうすると、組織やスタッフのアセスメントも必要ですね。

岡田:そうだよ。そのことに気づかない人は、人の真似をして失敗するんだ。真似をして成功するためには。自分の管理している組織や人について理解し、必要な対策を立てるということだよ。これって何かに似ていない?

奈須:看護過程ですね。

岡田:そのとおり。看護過程もマネジメントであり、共通しているんだ。

奈須:そう考えると対象が患者さんではなく、病棟組織やスタッフになるのですね。

 管理の究極は、自発的に業務の質や効率が改善していくことです。これがマネジメントシステムなのです。マネジメントのアレルギー治すには、マネジメントシステムが看護過程の考え方と同じだと理解するとよいでしょう。